TEP Story Archives : 人間の眼を持つ全自動3D映像システムを開発

Bi2-Vision株式会社 張 暁林 氏
Bi2-Vision㈱取締役CTO/東京工業大学准教授/TEPアントレプレナー会員

3D映像の制作現場に革命を起こした新技術

映画業界、テレビ業界、ゲーム業界、家電業界を巻き込み一大ムーブメントになりつつある3D市場。この3D映像の可能性に数年前から目をつけ、オンリーワンの技術を武器に今や世界から注目を集めている研究者が日本にいる。

東京工業大学准教授でBi2-Vision株式会社CTOの張暁林氏。張氏は「人間の眼をカメラで再現する天才」と呼ばれ、彼の技術が今、映像制作の常識を変えている。

3D映像は華やかな話題性の裏で、制作現場の技術は追い付いていなかった。一般的に3D映像を作るには、人間の左右の眼を再現するように2台のカメラを使い、それぞれの撮影角度を微妙に調整しながら、撮影した映像の歪みを手作業で編集する。

この作業は非常に複雑で、歪みを最適に調整しないと、「見ていて疲れる」映像となってしまう。完成までには膨大な時間とコストがかかり、これが3Dコンテンツ不足の一因にもなっていた。張氏は、これらの作業を完全自動化する世界初のシステムを開発し、3D映像の制作環境を一変させてしまったのだ。

 これまでの常識を一変させた世界初の全自動3D映像システム「BinoQ-Pシリーズ」

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ロボット工学と医学のテクノロジーを融合

全自動3D映像システムが実現した背景には、張氏のユニークな経歴が大きく影響している。中国人の張氏は、ロボットの活躍を描いた日本のアニメ『鉄腕アトム』の影響から、技術大国・日本でのロボット開発を夢見て1987年に日本に留学。横浜国立大学大学院で産業用ロボットの視覚制御に関する研究を始めた。

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<< Bi2-Visionでオンリーワンの技術開発を進める張 暁林 取締役CTO(東京工業大学准教授)

しかし当時のシステム制御工学では、人間の複雑な眼球運動を解明することはできなかった。そこで張氏は、1995年に東京医科歯科大学医学部に転身。人間が2つの眼球をどのように動かし立体的な映像を作り出しているのか、眼球運動と網膜情報処理のメカニズムを徹底的に研究した。

2003年からは東京工業大学の準教授として、自らのロボット工学技術と生理学・解剖学の研究成果をもとに、人間の眼球運動を再現するアクティブ両眼カメラを用いた「ロボットの眼」の開発に着手。研究の先進性が国からも認められ、文部科学省の助成を受けて2009年に技術が実用化のレベルへと達した。

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<< 2つの眼(カメラ)で人の顔を認識し移動するロボットの開発風景

映画「アバター」の年に3D市場に参入

張氏はこの革新的な技術の商用化に向けて、大学発ベンチャーとして2009年8月にBi2-Vision株式会社を創業した。しかし、ロボット産業はまだ黎明期でビジネスの環境が整っていない。そこで目を付けたのが3D市場。自らの開発技術が転用でき、ロボットより早期に市場が立ち上がると踏んだ。

Bi2-Vision創業から数ヵ月後の2010年、本格3D映画「アバター」が世界的な大ヒットを記録し、3D映像の注目度が一気に高まった。世界中の映像制作現場が、眼に優しい3D映像を低コストでスピーディーに制作できる製品を探し求めていた。

2011年には、映像制作大手の株式会社IMAGICAに3D映像システムを導入するに至った。さらにBi2-Visionは国内のみならず海外に対しても積極的なアプローチを始めている。日本で培った技術や経験を生かし、2年遅れで3D市場が立ち上がるといわれる中国に照準を合わせて、現在はマーケットにあわせた製品の調整を進めている。

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<< 海外展開に向けて国際展示会にも積極的に出展

日本人社長と中国人技術者の二人三脚体制

「会社経営は素人、あくまで研究者」と語る張氏は、2010年にBi2-Visionの社長に村上隆一氏を迎え入れた。村上氏はIBM関連会社の社長を退任し、現在はTXアントレプレナーパートナーズのエンジェル会員として活動している。張氏の技術と人柄に惚れ、投資家として出資をするだけでなく、社長として自らの経験で培ってきた会社経営ノウハウをBi2-Visionに投入している。

Bi2-Visionの社員は大学の研究者や博士課程を修了したばかりのスタッフ、社会人経験者としては中国、韓国、日本と国籍の異なるスタッフで形成されている。社会経験のゼロに近い彼らに「掃除の仕方から営業指導、販路開拓まで、一から教えていった」と笑いながら振り返る村上氏だが、その目は実に生き生きとしている。「自分の孫が大人になったとき、日本の先進技術から生まれたベンチャーがビジネスを牽引している世の中を作りたい」と意気込む。

村上氏という力強いパートナーに会社経営を任せることで、張氏は自らの研究活動に専念できる環境を得た。張氏は現在、大学で約20人の生徒の指導に当たるとともに、日々新しい技術開発を進めている。その視線の先には当然、ロボット開発を見据えている。「張氏の頭はアイディアの玉手箱、私の仕事はそのアイディアをタイミングよく引き出すだけ」と、村上氏は今後の可能性に自信を見せる。

日本人社長と中国人技術者の二人三脚だが、張氏は「同じアジア人」という。その夢は「アジア発の世界的なハイテクベンチャー」の創出。「ディズニーワールドに人類文明の発展史が描かれているが、アジアの話はまったく出てこない。アジア人の存在感を今こそ見せたい」と語る張氏は、まさにベンチャースピリットの塊だ。

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<< 新たなアイディアをもとに革新的な技術開発を進める張CTO